脂肪注入豊胸のしこりによって生じるリスク
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しこりは脂肪注入豊胸の良さが損なわれることはもちろんですが、その他にも恐ろしいリスクがあります。脂肪注入豊胸でしこりができるとどうなるのか? THE CLINIC でこれまでに行ってきた、脂肪注入のしこりの治療の一部始終をお見せします。
しこりの正体は壊死脂肪
まず前提として、注入された脂肪組織には十分な血流が必要です。それにも関わらず、大量注入や1カ所に塊で注入するなどして血流が上手く循環しない状態を作ってしまうと、脂肪組織が壊死を起こします。脂肪壊死の量が多いと高熱を出したり、全身にまで影響することもありますが、たいていは大量に壊死してもそこまでの大事に至らなかったり、部分的な脂肪壊死の場合が多く、免疫反応により壊死した脂肪の周囲にコラーゲン線維の膜(被膜)が形成されます。この被膜で物質が囲まれたものをのう胞と言うのですが、なかでも壊死した脂肪のオイルで被膜内が満たされているものを、オイルシスト(オイルのう胞)と呼びます。
しかし、どのしこりもオイルシストというわけではありません。中には細胞膜が壊れずに壊死し、細胞の形を保っているものも存在します。これが、充実性のしこり。また、内容物がなんであれ、炎症が長引けばその部分は線維質に置き換わり、線維性のしこり(嚢腫:のうしゅ)になります。このような違いで治療法が変わってくるのですが、エコー検査でしこりを確認することによって、適切な治療方法を選択することが可能です。
バストに与える影響とは?
本来、脂肪注入豊胸は、本物と同じ触感や形といった“自然さ”で人気の豊胸術です。THE CLINICを訪れるゲストも、「自然なバストになりたい」というニーズで脂肪注入豊胸を選択された方がほとんど。しかし、しこりができればこうした自然さは当然失われます。
なかには、しこりの治療にいらしたゲストから「しこり前提で大量の脂肪を注入された」という話も耳にしたことがありますが、それは大きな間違いです。バストの触感や見た目だけでなく、乳がん検診や炎症にも関係するのです。
バストの形をいびつにする
脂肪注入のしこり自体は悪性ではないので、必ずしも除去等の治療が必要なわけではありません。しかし、時間の経過とともに石灰化を起こすことが考えられます。すると、柔らかかったしこりも石のように硬くなり、触るとはっきり分かるものに。また、しこりの大きさや状態、位置によっては、バストの見た目を損なうケースも。しこりの一部が瘢痕化(組織修復のためのコラーゲン線維が過剰分泌され、沈着した状態)し、不自然に盛り上がり引きつれを起こした症例が、THE CLINICで実際に確認されています。
しこり前提の脂肪注入豊胸を受けた方が言うには、「もししこりができても簡単に除去できる」と説明されたそうです。早い段階なら、確かに小さな傷で吸引除去することもできます。ただし、このような状態まで進行してしまうと、胸を切開し摘出するしかなく、バストに消えない傷を負ってしまうのです。また、しこり治療をご相談のゲストの中には、他院で治療したもののしこりがなくならなかった方や、間違った治療法で悪化してしまった方もいらっしゃいます。
早い段階のしこりでもそうなのですから、このようなしこり治療が簡単ではないことは言うまでもありません。
乳がんの早期発見を妨げる
乳がんとの関係を気にされる方も多いのですが、脂肪注入によるしこりががん化することはありません。また、脂肪注入のしこりができていても、豊胸手術した旨を検査前に申告していれば、マンモグラフィー検査もエコー検査も問題なく受けられます。それでも、乳がん検査に対するリスクは払拭されません。
それは、早期発見を妨げる恐れ。検査の際にしこりの陰に隠れた小さな乳がんを見逃してしまう危険性があるのです。また、脂肪注入後のしこりであっても、その原因が脂肪とは限りません。考え過ぎかもしれませんが、しこり前提の脂肪注入を受けていた場合、「しこりはできると言っていたし」と、乳がん検査への初動の遅れを招きかねないように感じます。
炎症や皮膚障害のリスクを招く
マンモグラフィー検査はしこりがあっても受けられると言いましたが、大きなしこりの場合、バストを圧迫した際にしこりがつぶれてしまうことがあります。その際、壊死した脂肪が周囲に漏れ出すと、強い炎症が起こります。
また、水泡やびらん(ただれ)などの皮膚障害が起こる可能性も、ゼロではありません。そうなると、そこからの二次感染の危険性も考えられるのです。
危険性は学会でも発表済
脂肪注入豊胸のしこりに関してTHE CLINIC では、実際の症例をもって学会等で危険性や治療方法などについての発表を積極的に行っています。
またTHE CLINICでは、しこりのリスクや治療の概念がなかった頃からエコーを導入し、しこりの予防や治療に力を入れてきました。対外的にもウェブサイトでの情報共有はもちろん、ドクターを対象とした技術セミナーでも、しこりを防ぐ技術を詳しくレクチャー。また、脂肪注入後のしこりはその性質によって適切な治療法を選択する必要があるため、当院では術後のエコー検査の重要性を論文などでも発表しています[1][2]。
このような活動を通して、しこりへの危機意識を広めていく所存です。
コラムのポイント
- 脂肪注入豊胸のしこりの正体は、壊死した脂肪
- 「しこりができても問題ない」という概念は大きな間違い
- 見た目の支障・乳がん発見の遅れ・皮膚障害などのリスクが考えられる