脂肪注入の事情【乳房再建編】

脂肪注入の事情【乳房再建編】

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豊胸術でも関心が高い「脂肪幹細胞」。その存在は、乳がん治療後の乳房再建でも注目されています。近年、横浜市立大学附属市民総合医療センターが行なった記者発表(培養脂肪幹細胞による乳房再建を、日本の大学病院で初めて開始)などは記憶に新しいところではないでしょうか。
今回は、同院の形成外科部長/診療教授で、脂肪注入による乳房再建のエキスパートの1人。THE CLINIC の医師との親交も深い、佐武利彦先生にご登場いただきます。脂肪注入による乳房再建に取り組むようになったきっかけと、そこに見出した可能性。そして、今最も力を入れて取り組んでいる、最新の乳房再建について解説していただきました。

この記事の監修ドクター

佐武 利彦
佐武 利彦 医師
富山大学附属病院 形成再建外科・美容外科 教授/診療科長

これまでの乳房再建術と、そこで感じた限界

以前から行われてきた乳房再建では、患者さんご自身の組織(皮膚、脂肪、筋肉、血管など)の1部分を胸に移植する方法や、シリコンインプラントを胸部の欠損部に挿入する方法がスタンダードでした。これらは一定の成果を上げており、有用な再建法であるのは事実ですが、欠点も認められます(表参照)。
例えば、自家組織再建は、温かく軟らかく自然な形態と大きさの乳房再建が1回の移植手術でできることが最大のメリットですが、手術時間、入院期間が比較的長く、身体への負担もそれなりにありました。また、手術後に残る傷あとが目立つ場合があります。
一方、シリコンインプラントを用いた再建の場合、再建した乳房が自然に揺れなかったり、被膜拘縮による変形、痛みや経年によるバックの劣化と、それにともなうバッグの交換や修正手術が高い確率で避けられません。また、近年ではBIA-ALCL(ブレストインプラント関連未分化大細胞型リンパ腫)の合併などが問題となっています。
それでも多くの患者さんは「(胸が)まったく無いよりは」と再建手術を希望されるのですが、私としては「もっと身体の負担が少なく傷跡の目立たない、かつ自然で温かいバストが得られる方法があれば……」と、いつか新技術によってこうしたことが可能になることを、思い描いていました。

従来の
乳房再建術
自己組織を移植する方法(穿通枝皮弁/筋皮弁による乳房再建)
自己組織を移植する方法
(穿通枝皮弁/筋皮弁による乳房再建)
自己組織を移植する方法(穿通枝皮弁/筋皮弁による乳房再建)
インプラントによる乳房再建
傷あと 2箇所(乳房と組織の採取部位) インプラントによる乳房再建
仕上がり あたたく自然 冷たい/硬い
手術時間 6〜9時間程度 1時間程度
入院期間 7〜10日間 2〜7日間
メリット
  • 仕上がりが自然
  • 傷あとが乳房のみ
  • 手術時間、入院期間が短い
限界
  • 手術と入院に時間を要する
  • 比較的大きな傷が残る
  • 仕上がりがやや不自然
  • 乳房の大きさと形を健側に合わせるのが難しい

たどり着いたのは、脂肪注入による乳房再建

やがて私たちが注目するようになったのが、脂肪注入です。
脂肪注入は乳房や顔面の美容手術では古くから盛んに行われていましたが、実は、安全性への懸念から一時禁止されていた時期があります。それが2000年代の後半になって、再び実施されるようになりました。コールマンテクニック(次項で解説)という優れた注入技術によって安全性が高まり、治療成績が向上したことが、大きな要因となっています。2012年には米国の形成外科学会より「脂肪注入は乳房再建法の一つとして安全であることが示唆される」という発表もありました[1][2]
こうしたこともあって、私たちも脂肪注入による乳房再建に本格的に取り組むようになりました。脂肪注入なら、乳房に目立った傷を残しません。加えて、自然で温かい乳房に仕上げることができます。また、手術も日帰りで行うことが可能です。これなら従来法のデメリットを十分補えるのでは? と期待が膨らみました。

脂肪注入の流れ

脂肪注入の効果を大きく左右するのは生着率

とは言え、脂肪注入はそう簡単な技術ではありません。吸引した脂肪をそのまま胸に注入したとき、せいぜい生き残るのは30%程度です。この数字(生着率)をいかに上げるかの試行錯誤は、今なお続いています。
現在私たちは、生着率を上げるために重要なポイントは大きく3つあると考えていて、日々、その精度を上げることに注力しています。

Point 1:注入スペースを確保すること

脂肪の注入量と定着率の関係

脂肪は、あまり狭いスペースにたくさん注入しすぎると生着できません[3]。脂肪が生着する(生き残る)ためには十分な酸素と栄養が必要なのですが、すし詰め状態ではこれらを確保することが困難になるからです。
とは言え、乳房再建のように、完全に失われた乳房の容積を補うにはそれなりの脂肪量が必要です。ですから私たちは、脂肪の生着具合や皮膚の伸び具合を見ながら、通常2〜3回ぐらいにわけて少しずつ注入していきます。
また、乳房を全摘した患者さんはそもそも注入するスペースがほとんどないので、そのような方には体の外から皮膚を伸ばす乳房拡張器を使用することがあります。プラスチックやシリコンでできたドーム状の器具を乳房にかぶせ、弱い陰圧(吸いだす力)をかけることで組織を拡張させる機器です。人為的に「むくみ」を起こすことで皮膚を伸ばし、脂肪の生着に不可欠な毛細血管の生成を促すなどの効果が期待できます。

Point 2:コールマンテクニックを遵守すること

コールマンテクニックのポイント

コールマンテクニックとは、米国のSydney R. Coleman 先生が提唱した脂肪注入技術なのですが[4]、大きくは3点あります。1つは乳腺の中に注入しないこと、2つ目は0.2mL以内の小さな粒状で脂肪を注入すること、3つ目は乳房の脂肪層を中心に脂肪を注入することです。この技術は、脂肪注入の安全性を再認識させるに至った画期的な技術で、今なお脂肪注入に携わる多くの医師が参考にしています。

Point 3:脂肪幹細胞を豊富に含む脂肪を注入すること

脂肪幹細胞が脂肪の定着に寄与できる背景

脂肪の生着を良くするためには、脂肪幹細胞を豊富に含む脂肪が必要です。幹細胞を多く含む脂肪を注入すると、そこから新たに脂肪細胞が生まれるだけでなく、乳房内で血管の生成が促進され、脂肪が生き残るために必要な酸素や栄養がふんだんに供給されます。
こうしたことから、脂肪幹細胞を豊富に含む脂肪の精製技術の開発は相次いで進められており、私たちが取り組んでいる研究もその一つです。

現在は、培養脂肪幹細胞を多く含む脂肪注入に注力

私たちは今、培養幹細胞付加脂肪の注入※に力を入れています。脂肪の生着で重要な役割を果たす脂肪幹細胞を培養で増やし、それを脂肪に混ぜて注入するという方法です(先日行なった記者発表もこの治療に関するものでした)。従来の脂肪注入法に比べて桁違いの数の脂肪幹細胞を注入できるので、生着率を大幅に改善できるのではないかと期待しています。
現在(2019年6月)、私たちはこの治療を8例の患者さんに実施済みで、その効果を検証しているところです。新たな発見が得られ次第、今後も随時、一般の方々にも広く情報を発信していきます。
※THE CLINIC では「コンデンスセルチャー豊胸」として実施

培養脂肪幹細胞による乳房再建

おわりに〜読者へのメッセージ〜

乳がんは誰もがなりうる可能性のある病気です。もしご自身が乳がんになったとき、あるいは身近な人がそうなっとき、今回ご紹介したこと(乳房の再建には脂肪注入という選択肢もあるということ)を思い出していただければ幸いです。乳房再建治療の選択肢は確実に広がりつつあります。
脂肪注入による乳房再建手術について詳しくはこちらをご覧ください。
脂肪注入による乳房再建 概要

大橋統括指導医のコメント

ドクターコメント&プロフィール

同じ脂肪を専門に扱う医師として、大変興味深い報告でした。佐武先生が語っていらっしゃった生着(定着)に関する意識と、それに対して実践しておられることの多くは、日頃、私たちが行っていることと一致しており心強く感じます。豊胸と乳房再建は共通することが少なくないと思いますので、今後も佐武先生らの研究の動向を見守りつつ、色々と学ばせていただければ幸いです。

コラムのポイント

  • 皮弁移植やシリコンインプラントによる乳房再建には、メリットとともにデメリットもある
  • 脂肪注入による乳房再建は、従来の再建術のデメリットを克服可能
  • 佐武先生(横浜市立大学附属市民総合医療センター)は、培養脂肪幹細胞を用いた乳房再建治療に取り組んでいる

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